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国際弁護士から民間人校長になったワケ(後編) 〜国で変えられないなら現場から〜

大阪府立和泉高等学校 校長 中原徹さん

国際社会で通用する人材を育てたい。中原校長の切実な思いは痛いほど伝わってきます。校長就任わずか1年足らずで、既に結果が出始めており、TOEFLの取り組みは府内の高校にも広がりを見せているという。一方で、お世辞にもトップ校とは言えない学校で、国際社会を訴える校長の思いは届いているのだろうか。理解されているのだろうか。そんな意地悪な質問をぶつけてみました。(聞き手=伊藤ひろたか)

伊藤

どうせ勉強していないんだからTOEFLの努力くらい大したことないと言い切る所に、中原さんの本気度というか、切迫さを感じました。これからは、その取り組みをさらに加速させるとか?

中原

来年の新1年生からはグローバルコースという特進コースを作ります。2クラス80人限定で。その子たちは1年生からTOEFLをやります。今までは文系だけだったんですけど、理系こそ、エンジニアとか学者とか、世界で活躍する必要があるなって思いまして。


学校内でも、だいぶ基盤が出来て、TOEFLが役に立つということを周りの先生が理解できるようになってきました。今、高校2年生、2年4組がTOEFLを勉強している子たちがいるクラス。このクラスのうち、18人がTOEFL、22人が通常の英語クラスになっています。英語の授業は同じクラスでも別行動です。


今、面白いことが起きていて、2年4組は数学も社会も、他の科目においても学年で一番成績がいいんです。各教科の先生が2年4組に入ると、「校長先生、あのクラスだけ違う学校になっている」と言います。

伊藤

どういうことですか?

中原

TOEFL組の18人が英語が出来るようになるのは当たり前のことですが、そのことで非TOEFL組の20人の負けん気をあおっているんです。これは狙ったことではありません。結果的にそうなっている。


英語以外で負けてなるものか、と。だから他のクラスに比べて、英語以外の教科の成績もぐんぐん伸びています。

伊藤

ここに来るまでは大変だったでしょうね。中原さんの発想はなかなか旧態然とした教育現場ですんなり受け入れられるとは思えない。

中原

そこはね、最初に申し上げた通り、論理ですよ。最初は言われる訳です、「そうはいったって、あんたは教育現場を知らないじゃないか」と。それはそうなんです。だから、論理。ひとつひとつ事実を丁寧に積み上げて自分の言っていることが生徒の役に立つことを論理的に説明していく。これでTOEFLを導入してきたし、現場を改革してきました。


でもね、新しい取り組みをしているからこそ、次の動きも出ているんですよ。大阪の府立高校のトップ校の1つに三国丘高校がある。ここの先生がTOEFLを導入しています。選りすぐりの生徒を集めて、東京の有名なTOEFLの予備校の先生とオンラインで結んで、土曜日に授業をやっていますよ。


他にも府立住吉高校もTOEFLを授業に導入しています。他にも本格的にこういう英語教育に切り替えようとしている学校関係者にも出会っています。


TOEFLアライアンスで

卒業と同時に留学の切符

伊藤

何か具体的な動きとして計画されているんですか?

中原

はい。TOEFLアライアンスを作りたいと思っています。和泉高校と三国丘高校、そして住吉高校。あと、今、新潟県立国際情報高校。例えば3年以内にTOEFLのスコア80点以上を何人出すって具体的な目標を掲げて。関東でも賛同してくれる高校があるといいんですけどね。希望ヶ丘とか湘南とか。紹介してもらえませんか?


それで、アライアンスを組んで、年に1回くらい泊まり込みで研修をやって、どういう教え方をしたら効果があったとか、どういうところでつまずきやすいかとか、徹底的に議論して、情報交換をして、それを現場の英語教育に還元していきたい。


アカデミックな英語としてのTOEFLの実力を上げるための指導方法の研鑽をしたいですね。灘高とか入ってくれたら嬉しいんですけどね。今までの英語の勉強方法では入れなかった1つの上の学校に入れる、そしてTOEFLも取っているから留学という選択肢も手に入れる。


英語を話したり、聞いたりすることはコンプレックスでも何でもないよという高校生を100人でも200人でも送り出すことができれば、それは大きなインパクトだと思っています。

伊藤

そして、コミュニケーションとしての英語をどうするか。

中原

ここは単純な話で、もう耳を鍛える以外にないです。とにかく音ですよ。外務省のプログラムでJETプログラムというのがあるんですけど、ネイティブスピーカーの先生を取りまとめているリーダーのアメリカ人の先生と話をしていたら、とにかく日本の英語教育はダメですよ、と。これでは、いつまで経っても英語は聞けないし、しゃべれない。


でも、彼らはまだ遅くないって言います。英語が苦手な小学校の先生すら、英語を聞ける、しゃべれるように矯正できるって言うんです。そのためには音。Phonicsって言うんですけどね。

伊藤

this is a pen. ではダメだと。

中原

そりゃそうです。小学校の最初の2年間、あるいは3年間、徹底して音を聞くだけでもいいくらい。音が分かれば、絶対、聞ける、しゃべれる、読めるようになります。


日本人が国際舞台で堂々としていないという話を一番最初にしましたが、その点は海外の男性はいい意味で男らしい。中東でも欧米でも、男らしさへの尊敬ってあるんですよ。そのせいか、海外の男性は「根拠のない自信」がある。「俺は出来る!」っていうね。やったことあるの?根拠はあるの?って聞くと、「ない!」と(笑)。「ないけど、俺はやれる。なんかそんな感じがする」って。日本人は「根拠のない自信のなさ」がある(笑)。

伊藤

最後に、保護者への理解。この部分をお聞きしたいんです。今回、ずっとお聞きしていても、やっぱり国際社会で活躍する人材をいかに育成するかという点に主眼が置かれています。


私は中原さんがされている教育はこれからの日本で大事だと思っています。もちろん、「僕は世界には行きません。だから英語は必要ありません」という子がいてもいいと思います。ただ、世界に出たいと思う子どもたちに、そのための選択肢は最低限、用意してあげないといけないなって考えています。


一方で、こういうと失礼ですが、和泉高校は中堅校。その辺はギャップがあるのではないでしょうか。

中原

うん、本当にそう思います。今はその選択肢がないですから。日本の英語教育は失敗し続けているので。結果が出ていますから。


僕は弁護士の時とスタイルを変えていません。あれしろ、これしろって言わないんです。オプションを提示して、その長所と短所を提示するスタイル。あとは選んでくれ、と。その代わり、後でがたがた言わないでくれ、と。


始業式、終業式でも「これとあれを、こうして、あぁやりなさい」って一言も言わないですから。


僕はやれって言わないですよ

リスクを提示するんです

伊藤

それは意外です。

中原

うちの高校、2年生になるとだらけちゃうんですよ。大阪の府立高校の特徴なんですけどね、入学した時よりも卒業する時の偏差値がちょい落ちちゃうんです。そんなのダメじゃないですか。親として入れたくないですよね。


この前もね、終業式でこう言いました。「今日、僕は校長として、みなさんにリスクの告知に来ました。このままだと、クラスの上位10%、つまりクラスの上から5番目に入っていないと、関東でいうところの日東駒専にすら入れません。それが現実です」。


大学だけが人生じゃないし、難関大学に行くだけが人生じゃない。各ご家庭の方針もある。だから、この話を切り出す前に、こうも言いました。「大学に行かないって人はごめんね。時間取っちゃって。大学に行かない人は僕の話は聞かなくていいから、邪魔しない程度に黙ってじっとしててね」、と。


でも、いっちょ前に大学に行きたい、少しでも高いステージの大学に行きたいって子は、もう今のままではダメだよと。無理ですよ、と。僕はみんなに頑張ってくれとは思わないけど、それが現状ですからね。これが告知ですって。あとから「先生、もっと早く言ってくれればよかったのに」って言ってもダメですからね。今日、ちゃんと話をしましたよ、と大勢の生徒に伝えました。

伊藤

やれって言わないですか?

中原

今の子どもたちには、そういうアプローチが意外といいのかもしれないですよ。突き放した方が。すごい甘やかされて育っている感じがしますから。勝負を避けてきたというか。

伊藤

今のお話は衝撃です。だって、中原さんは民間人校長で任期は3年。普通、結果を出したいから、ついつい色々と言いたくなっちゃうと思うんですよ。

中原

でもね、言ってもダメですからね。言って動くならわめきますけどね(笑)。野球でもね、星野監督タイプは今、受け入れにくくなっている気がします。一番評価されているのは落合監督じゃないですか。


落合監督は決して選手に媚を売る人ではないと思いますよ。甘やかす訳でもない。突き放したりしますよね。結果には自分で責任を持てって。


生徒も16歳、17歳になったら、もう大人ですから、自分で考えていますよ。そういう彼らに「くやしくないのかー!」って言ってもね。去年は言ってみたこともあるんですけど、なんか違いましたね。

伊藤

そうすると、最初の話ではありませんが、何か客観的な数字が必要ですね。

中原

そうそう。客観的な数字がある時は、それをばっと出せば、分かると思うんですよ。それが分からない人に無理にやらせようと思っても、それは土台、無理な話ですよ。高いステージを目指す気がおきない、競争はできれば避けよう、そう考えるか否かは各ご家庭の方針でしょう。


そこに僕は首を突っ込むべきではない。グローバル化に対応しなくてもいいよ、ただ学校生活を楽しんで、それで行ける大学にいければいいじゃないかっていうのがご家庭の方針なら、そこに僕が口を挟むべきではないでしょう。


頑張った人が頑張った分だけ結果が伸びた時に、他の人がどう思うかですよね。絶対に得しているという結果が出れば、そっちがいいって思うはずです。

伊藤

中原さんの考え、スタンス、あるいは英語を含めた教育にかける思いがどれくらい高校生に伝わっているのでしょうか。

中原

やっぱり、これは大学生の方が伝わりますね。先日大学で講義した時の反応は、それはすごいです。高校生だとどうでしょうか。以前、三国丘の生徒に海外留学の話をしたことがあるんですけど、その時の生徒の目は輝いていました。


ただ、うちの学校に限定するとね。中堅校ですし。毎日、親御さんからグローバル化を意識しろって言われる環境にないですし。関西国際空港が目と鼻の先にあって、もっとグローバル化ということを意識してもいい地域なんですけどね、ご家庭によって危機感の大小はありますね。


僕が海外に住んでいた時には、今日、ずっとお話してきた「グローバル化への危機感」は、そのまんま現地の日本人に受け入れられるんです。そのまんま100%、あなたの言っていることは極論でも何でもなくて、まさに核心をついていますって。でも、残念ながら日本ではまだまだ少数派です。伝わっていないということは、僕の伝え方にまだ問題があるのだと思っています。

伊藤

英語はアウトソースでいいんじゃないのって話にも似ている気がしますね。

中原

日本を取り巻く環境の厳しさ、危機感を共有してもらうって難しいです。だから、教育なんですけどね。だけど、楽天しかり、ユニクロしかり、日本企業の中でも社内公用語を英語に切り替えたり、パナソニックが外国人の雇用を増やす方針を明らかにしていたり、明らかに時代が変わっているのに、日本はのんびりしているなぁと思いますよ。気が付けば会社の上司の大半が外国人、国際会議では日本人以外全員通訳なし、なんていうことも十分ありえる状況なんです。


そういう意味では、あまり大きな話題にはなっていませんが、東大の秋入学への切り替えは注目ですよね。東大なりの危機感の現れですよ。ただ東大を出てもグローバル社会のリーダーになれないことがようやく認知されたのだと思います。


世界に目が向かない日本という環境で、教育の現場の目標は次の学校に入れること。中学は高校に、高校は大学に入れるのが目標。そのゴールである東大が変わろうとしていますから、その姿勢は小学校や中学校、高校に波及する可能性はあるでしょうね。本当はそれぞれの現場で変わる努力をしなくていはいけないし、もっと言えば、政治がしっかりしないといけないと思います。

伊藤

今日は長々とありがとうございました。最後に今後の目標などお聞かせ下さい。

中原

僕は国に対して何かをしなくてはいけないという思いが海外に出て強くなりました。そして、どうせなら、自分が一番大事だと思う分野で少しでも貢献したいと思って教育の分野を選びました。


民間人校長なので任期は3年、長くても5年です。その先はまったくの白紙です。この世界に飛び込む時に、3年、長くても5年というスパンで結果を出すことを考えて入ってきましたので、先のことは考えていません。